追悼 西村京太郎さん

本日、小説家の西村京太郎さんがお亡くなりになったとの報道がありました。

西村京太郎さんといえば、十津川警部シリーズに代表されるトラベルミステリーを数多く書かれた方。
今日は私、外部業務先にいたのですが、訃報が伝わった瞬間その場にいた読書好き、鉄道好きの方が全員絶句した程、存在感がある小説家、トラベルミステリーという分野の牽引者であったといって過言ではないでしょう。

私も10代から30代前半まで、多くの作品を読ませて頂きました。
近年は正直、作風が変わられた(というより、トラベルミステリーに縛られてしまったようにお見受けしました)ように感じ、新刊から遠ざかっていましたが、それでも過去に読んだ作品が色褪せる事はありません。

ですが今日、私が「院長お勧めの西村京太郎作品って何?」と訊かれて、答えたのはトラベルミステリーではありませんでした。

私が西村京太郎さんの作品で一番好きなのがこちらです。


D機関情報
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ご覧の通り、何度も何度も読み返した本なので、私の蔵書はボロボロです。

太平洋戦争の敗色が濃くなりつつあった昭和19年、海軍中佐関谷直人は中立国スイスでの戦略物資購入という密命を帯び、日独連絡の潜水艦に便乗し、欧州へ向かう。
長い航海の末、ドイツに到着した関谷中佐は現地で協力してくれる筈だった兵学校時代の旧友、矢部中佐が謎の死を遂げていた事を知る。
旧友の死に不審を感じつつ目的地のスイスに向かう関谷中佐も、道中の事故で戦略物資購入資金として持参した金塊が入ったトランクを紛失してしまう。
トランクを取り返そうとする関谷中佐は、スイスで暗躍する各国スパイの諜報戦に飲み込まれてゆく…
誰も信じられぬスパイ達の中で、同じ志を持つと思っていた亡き旧友、矢部中佐が何を想い、何の為に命を落としたかを知り、敵国である米国の諜報機関「D機関」に接触する…


西村京太郎さんをトラベルミステリーの作家さんとしか知らない方にとっては戦時中が舞台で軍人が主人公という時点で新鮮な作品かもしれません。
本作は1988年に映画化もされていますが、やっぱり作品に引き込まれるのは原作でしょうか。

現在、ウクライナとロシアの間で戦乱も起きています。
作中にある<本分ニモトル事ナキカ>という言葉も踏まえ、国を守るという事、平和という事を考えながら読み、今の戦乱を見つめ直せば、違うものも見えてくるかもしれません。


享年91歳。
トラベルミステリーの取材で全国を回られていたでしょうから、身体も丈夫だったのでしょう。大往生といっていいお歳でした。
正直なところ、鉄道は勿論、交通機関も高速化・効率化が進み、またネットの発達もあり、西村京太郎さんが得意とされた新たな時刻表トリックは残念ながら生まれる余地がほとんどないと思います。
そういう意味では、交通、特に鉄道が最も面白かった時代にトラベルミステリーを沢山執筆されたのは小説家としては幸せな事だったのかもしれません。

日本で最も愛された小説家のひとりであった、西村京太郎さんのご冥福をお祈り致します。合掌。

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